人類にとって代表的なペットの一種である猫。2017年には日本における推計飼育数で、猫の数が初めて犬の数を上回るなど、近年ますますその人気が高まっていますが、日本国内で猫が愛されていたのは、1000年以上も前からであった事を示す、宇多天皇の日記が海外で注目されています。その日記の名は、全10巻からなる「寛平御記」。猫に関する記述が含まれる部分を含め1巻も現存せず、他の書物等に引用されて、現代まで伝わってきました(日記は寛平元年(889年)に漢文で書かれた)。「暇な時間を利用し、猫について記そう。 この一匹の黒猫は、太宰府の役人だった者が、 退官の際に先帝(光孝天皇)に献上したものである。 その毛色は他の猫とは明らかに違っている。 他の猫は浅黒い色をしているのだが、 この猫だけは真っ黒である。 まるで墨のように真っ黒なのである。 体は小さく屈むとまるで黍(きび)のように小さいが、 大きく伸びると弓を張ったかのように長くなる。 その瞳は針のようにキラキラと光っており、 耳は匙のようにピンと聳立している。 臥せると丸くなって足や尻尾が見えなくなり、 まるで黒い玉(宝石)のように見える。 そして歩く時には一切音を立てる事がなく、 あたかも雲上の黒龍である。 気の導引術を好むようだが、 毛色が美しいのはそのおかげだろうか。 また、夜には他の猫よりも素早く鼠を捕まえる。 先帝は数日可愛がったのち、この黒猫を私にくださった。 それから5年の月日が経つが、毎朝乳粥を食べさせている。 ここまで大事にするのはこの黒猫が優れているからではなく、 あくまでも先帝から賜った猫だからである。 どんな小さな存在でも大事にしているのである。 ある日猫に『お前は陰陽の気を宿し、心も体もあるのだから、 きっと私の心が分かるだろう』と訊ねたところ、 猫はため息をついたのちに私の顔をじっと見上げ、 咽を鳴らし、何か…
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